好きになれとは言ってない

 コンパの近づいた今、航も同じ呪文を口の中で唱えている気がした。

 トナカイだから、大丈夫。

 ちらとカウンターの中にあるあの箱を見る。

 渡すのやめようかな。

 だが、盛り上がるみんなの中で、いじけているシンデレラの顔が目に入った。

 王子は兄貴で、俺は魔女かな。

 いや……悪い魔女かもしれないが、と思いながら、
「遥ちゃん、知り合いに問屋さんが居るんだけどさ。
 棚落ちで戻ってきたトナカイの着ぐるみもらったから、これ着なよ」
と小さな箱に入った着ぐるみを渡す。

「あ、ありがとうございます~。
 でも、遅かったです。

 昨日、ぽちっと買っちゃったんですよー、着ぐるみー」
と言う遥を、

「いや、俺は遥ちゃんがそれ着ないなら行かないからね」
と脅した。

 俺がどれだけ迷って渡したと思ってるんだっ。

 絶対着てもらうよっ、と思っていた。

 他の客の相手をしている間も、遥の連れてきた女の子たちの会話がもれ聞こえていた。

 彼女らは、遥は最早、航で決まりだと言うような態度だが。

 なんだかそれが無性に引っかかっていた。