好きになれとは言ってない

 えーと、と思いながら、反射的に、ホームに立つ航に頭を下げたとき、扉は閉まってしまった。

 あっという間に、その姿は見えなくなる。

 もう景色しか見えない車窓を見ながら、遥は固まっていた。

 降ります、とすぐに言うべきだったのでしょうか……。

 いや、でも、それもなんだか、と今更なことを悩みながら、電車を降り、ひとり夜道を歩いていると、携帯が鳴り出した。

 その着信表示を見て、
 かかかかかかか、課長だっ、と慌てふためく。

 まるで爆弾のように携帯を持て余していたが、でっ、出なければっ、と何故か震える指でそれに出た。

「ももももももっ、もしもしっ。
 もしもしっ!」
と死にそうな声で出ると、どうしたんだ? とでも言いたげな間のあと、

『大丈夫か?
 ちゃんと帰ってるか?』
と航が訊いてきた。

「はははっ、はいっ」

 はいっ、教官っ! という勢いで答えると、

『いや、夜道は心配だから。
 やっぱり付いて帰ればよかったなと思って』

 でも、お前の親がまた送ると言い出しそうで悪いから、と航は言ってきた。