好きになれとは言ってない

 騙されていたのは、あのお母様か、課長か。

 課長っぽいな、と思っている横で、航が
「俺はつい最近まで信じていた」
と言い出す。

 貴方ほどの人が何故……と思ったが、まあ子供の頃に植え込まれた記憶とか知識って、普段使わないものならあえて考えないし、疑わないもんな、と思う。

 ってことは、真尋さんも甘いものは好まないのだろうかと思い、訊いてみると、
「いや、真尋のときは、既に子育ても手抜きになっていて、あいつは、やりたい放題だったから」
と言ってくる。

 そこでこの性格の違いが産まれたのだろうか。

 いや、性格って、持って産まれたものだろうかな。

 そそんなことを考えている間に、航の駅に着いてしまった。

 あーあ、と思っていると、航が、
「降りるか?」
と訊いてきた。

 えっ、とつい赤くなって、止まっていると、
「冗談だ、おやすみ」
とあっさり言って、降りていってしまう。