好きになれとは言ってない

 



 帰りの電車、遥は航と並んで座り、不思議だな、と思っていた。

 この人と一緒に座っているだけで、こんなに嬉しいなんて。

 最初に横にはべらされたときは、緊張のあまり死ぬかと思っていたのに。

 あのときは、腰が触れるくらい真横に座っていても、なんとも思っていなかったらしい航が、今は少し距離を空けている。

 確かに自分も、今の方が近づきにくい。

 そんなことを考えながら、
「そういえば、課長は、デザート召し上らなかったですね」
と言うと、

「母親のロシア式教育法により甘いものは好まないからな」
と航は言う。

「なんですか、それ?」

「例えば、甘いものをあまり食べさせたくないなと思ったら、満腹のときなどに、嫌になるまで、食べさせるんだ。

 すると、甘いものを欲しいと思わなくなり、嫌いになる。

 俺はそれを実践されたんだ」

 ……どんな教育法だ、と思いながら、
「そんな教育法があるんですか。
 すごいですね」
と言うと、航は眉根をひそめ、言ってきた。

「それが大人になって、調べてみたら、どうもそんな教育法はないようなんだ」

 どうやら、騙されていたようだ、と。