好きになれとは言ってない

 



 これは、美人の居るお店じゃなくて、小堺さんがデートに使ってるお店なのかな、と遥はそのお店を見て思った。

 個室だし、落ち着いた雰囲気だし。

 料理も美味しそうだ。

 来るまでは、課長、なにか話があるのかな、と気になっていた遥だが、今は、出てくる料理に釘付けだった。

 店の雰囲気に合わせて、一品ずつ、センスよく盛られて出てくるが、親しみやすい味付けで美味しい。

「このお豆腐、なんでしょうね?
 今まで食べた、どんなお豆腐とも違うような……」
と真剣に料理について語っていると、

「まあ、気に入ったのなら、よかった」
と言われた。

 やはり、外食が続いていると言ったことを気にしていたようだ。

 よ、余計なことを申しまして、すみません、とたっぷり反省したあとで、日本酒の利き酒セットを真剣に呑み比べていると、航が口を言ってきた。

「昨日、真尋の店の帰り。
 前、俺がリストラした人が夜道で待ってたんだ」

「えっ? 刺されたんですかっ?」
と厚みのあるガラスの小さな杯から顔を上げて言った遥に、航は、

「……今、此処に居るだろうが」
と言う。