好きになれとは言ってない

 



「なにが食べたい?」
と待ち合わせた書店で航に訊かれた遥は死ぬほど迷っていた。

 見ていた本を棚に戻しながら、口を開こうとしたとき、
「ああ、真尋の焼きそばとナポリタン以外でな」
と言われる。

 いや……何故ですか。

 飽きたのだろうかな? 真尋さんの料理に。

 まあ、私よりは食べてるだろうからな。

 そんなことを考えながら、
「では、最近、外食続きなので、和食など」
とうっかり言って、

「そうか。
 続いてたのなら、誘って悪かったな」
と言われてしまう。

 ああっ、しまったーっ! と絶叫しそうになった。

 今、外食続きなのでと言ってしまった、何秒か前の自分のところまでタイムマシンで戻って、後ろから棍棒で殴りたい。

 だが、タイムマシンも棍棒もないので、
「ぜ、全然悪くありません」
と震える声で否定してみた。

 そうか、と言った航は、それほど気にしてはいなかったようで、
「じゃあ、近くに小堺のお薦めの店があるから行ってみるか」
と言ってくる。

 小堺さんお薦め……。

 今度はどんな美人が居るんだろうな、と思ってしまった。