好きになれとは言ってない

 



「今朝、課長、いつもの電車に乗って来なかったんですよ。
 なにかあったのかと心配で」
と給湯室で遥は亜紀に言ってみた。

 昨日、丸聞こえだと注意されたので、人事の方を窺いながら、かなり声を落として。

 中もチラと見てみたが、今もまだ来ていないようだ。

 だが、亜紀は、
「あら、前も乗ってなかったことあったんでしょ?」
と遥の心配を軽く流そうとする。

「でも、変な夢見たんですよー。
 だから、なんか気になっちゃって」
と言うと、どんな夢よ、と訊いてくる。

「まどかさんの電話番号を探していたら、鹿が現れて、撃とうとしたら」

「ちょっと待った。

 なんでいきなり撃つのよ。
 鹿、可愛いじゃないの」

 あんた、猟友会の人? と言われてしまう。

「え?
 クリスマスコンパのために、トナカイの着ぐるみがいるからですよ」

「なに当然のように言ってんのよ。

 着ぐるみなら、あんたの好きな100均か、パーティグッズの店で買いなさいよ。
 この時期、そこら中にあるでしょ」
と言われ、だって、夢ですから~、と答える。