好きになれとは言ってない

「え、はい……」
と言うと、真尋は奥に入って行った。

 なにかを書いた紙を持って外に出る。

 それをドアに張って戻ってきた。

「なんですか? 今の」
と問うと、

「今日、九時で店閉めるから、軽くなにか食べて待っててよ、遥ちゃん。
 本当に美味しいお店に連れていってあげるよ」
と言い出す。

「えっ、でもっ」
と店内を見回す。

 早く閉めさせていいのだろうかと思ったからだ。

「いや、もともとは九時なんだけど。
 なんとなく、ずるずる遅くまで開けてたんだよね。

 今日はちゃんと、九時に閉めようかと思って」

「ちゃんと閉めますって書いて来たんですか?」
と振り返る。

 白い紙がガラス越しに見えた。

 それもおかしな話だ。

 ちゃんと時間通りに閉めますとか。

 ちゃんと定休日には休みますとか。

 わざわざ書いて張らないといけないなんて。

 真尋さん、人が良さそうだから、まだ、大丈夫? とか、あら、日曜は休みなの? とか言われたら、店開けちゃうんだろうな、と思ってちょっと笑ってしまった。

「つきあってあげるよ、遥ちゃんの愚痴に。
 どうも兄貴が原因らしいから、責任とって」
と真尋は言ってくる。