好きになれとは言ってない

 




「なに唸ってんの? 遥ちゃん」

 会社帰りに寄った店で、カウンターの向こうから、真尋が訊いてくる。

「いや、なにやら、私、大失態を犯したようでして」

「へえ、仕事?」
と訊かれたが、黙ると、

「ああ、じゃあ、兄貴のことだね」
と笑って、結論づけられた。

「まあ、聞かないでおいてあげよう」
と武士の情けか、仏心か言ってくれた真尋は、

「で、なんにするの?」
と訊いてきた。

「なにかこう、私の心が癒されるようなスペシャルなものが食べたいです。
 とりあえず、焼きそばとナポリタン以外のもので」

 わかった、と苦笑する真尋には、本当にわかっていただろう、と思う。

 焼きそばとナポリタンを見ると、課長を思い出すので避けているということを。

「真尋さん。
 なんでこう、なにもかも上手くいかないんですかね?」
と呟くと、

「よくわからないチャラ臭い男とフラフラしてるからじゃないの?」
とつれなく言われてしまう。