好きになれとは言ってない

 




 なんだかんだでいい男、のなんだかんだが気になるな、と遥は思っていた。

 給湯室を出て、ひとり廊下を歩きながら、なんだもかんだもなく、課長は、いい男ですよーと思っていると、

「遥」
と呼びかける声がした。

 ひっ、と遥は身をすくめる。

 航が後ろに立っていた。

 もしかしたら、心配して、給湯室の様子を窺っていたのかもしれないと思う。

「悪かったな」
と航は言ってきた。

「うっかり余計なことをしゃべってしまって」
と言うので、

「うっかり過ぎます~っ」
と文句を言った。

「でもあの、課長。
 私、本当に、課長にそんなご無礼なことを言ったんですか?」
と訊くと、航は少し赤くなり、

「……ご無礼ってわけでもないだろう」
と言ってくる。

 まあ、ペラペラしゃべって悪かった、と言って航は行ってしまった。

 課長らしくもなく、何故、そんなことを人にしゃべったのか。

 結局、したのかしなかったのか、なにもわからなかったな、と思いながら、その後ろ姿を見送った。