好きになれとは言ってない

「それにしても、あんた純情そうな顔してすごいわねっ」
と言われ、

「いっ、言ってないと思いますっ」
と遥は主張した。

「きっと、なにか話が曲がりくねってるんですよっ。
 だって、出どころ、大葉さんと小宮さんですからっ」
と我が身可愛さに失礼なことを言ってしまう。

 そのとき、ちょうど航が給湯室の前を通った。

「あっ、課長ーっ」
といきなり立ち上がった亜紀が航を呼び止める。

 ひいいいいいいっ。

「課長っ。
 遥が課長に、路上で、お姫様抱っこでキスしてくれって言ったってほんとですか?」

 祈るように航を見ていたが、航は一瞬、上を見たあとで、
「……ほんとだが」
と言ってきた。

「死にます」

 は? と二人が振り返る。

「私をさっきのヤカンで殴ってくださいっ」

「いや、あんた、なに言ってんの?
 ヤカンで死なないから」

 っていうか、それで死ぬほど殴るの嫌だから、と亜紀が言ってくる。