好きになれとは言ってない

 



 昼の仕事が始まり、最近食べ過ぎなので、階段を使っていると、下から小宮が上がってきた。

 冷ややかにこちらを見て言う。

「あ、お姫様抱っこでキスの人が来た」

「なっ、なんなんですか、それーっ」
と叫びながら、遥は、ん? お姫様抱っこのフレーズ、今朝聞いたな、と思っていた。

 じゃ、と行こうとする小宮の腕を引きずり落す勢いでつかむと、

「死ぬ死ぬ死ぬーっ。
 遥ちゃんっ」
と手すりをつかんで、小宮が叫ぶ。

「あっ、すみませんっ!
 てか、なんなんですかっ。

 その、お姫様抱っこでキスってーっ」

「デカイ声で叫ばないでよっ」

 響くよ、階段。
 丸聞こえだよーっ、と小宮の方が叫んでいる。

「あのっ、さっき、ロビーで大葉さんたちがすごいにやにや笑って私を見てたんですが、なんかそれと関係あるんですか?」
と逃がすまいと腕をつかんだまま問うと、

「ああそう。
 今日、僕、珍しく新海課長たちとお昼一緒だったんだけど。

 君の話になったとき、課長が、この間、遥ちゃんに、路上でお姫様抱っこでキスしろって言われたって話になってさ」
と小宮は言い出した。