好きになれとは言ってない

 



「朝から熱々ねえ、遥」

 ロッカーで遥は亜紀にそんなことを言われた。

「……熱々なのでしょうか」

 心の底から疑問に思い、訊いてみる。

「だって、二人で出勤してきたじゃないの」

「あれは私が待ち伏せしたからです。
 ……私、課長のストーカーなのですかね?」

 常々不安に思っていたことを問うてみると、
「なに言ってるのよ。
 そのくらいストーカーの範疇には入らないわよ。

 あんただって、学生時代、好きな先輩とかを隠れて見てたりしてたでしょ」

 それと同じよ、と言われる。

「してません」
「は?」

「こみ……」

 うっかり小宮さんに言われて、気がついたんですが、と言いかけたのだが、亜紀の手前、そこのところは呑み込んだ。

 また余計な揉め事が起こりそうだったからだ。

「よく考えたら、私、今まで誰も好きな人とか居なかったんです」

「それはまた貴重な人材ね」
と半ば呆れたように亜紀は言う。