好きになれとは言ってない

 




「……お姫様抱っこはしてないぞ」
と言った航を遥が不思議そうに見た。

 なんでそんな話になったんだろうというように。

 こいつ、その辺の話も覚えてないな、と航は思う。

 まあ、覚えていてくれない方がいいのだが。

 正気のときには、酔っているときの会話は思い返したくないものだ。

 あのあと、寝ている遥を二階まで背負って上がり、遥の母親が背中から下ろして、寝かせたのだ。

 お姫様抱っことか、親が見てるのに出来るか、と思っていた。

 早い時間なのに、なにか行事でもあるのか、若い人が多く、珍しく電車は混んでいた。

 人に押されるがまま、遥との距離も近くなる。

 ……隣りのオッサンとの距離も近いが。

 遥は照れたように俯いているが、いや、俺の方が何処を向いていいのか、わからないんだが、と思っていた。

 身体は遥の方を向いてしまっているが、そちらを向くと、ちょうど鼻先に遥の頭のてっぺんがある。