好きになれとは言ってない

「よくこんなめんどくさいのと付き合う気になったね」

「いえ、付き合っては……」
と声に出して、否定しかけたとき、

「遥。
 夕食は食べたのなら、なにか飲め、奢ってやる」
と言いながら、窓際のテーブル席に航は座ろうとする。

「なんでそんな離れるのさ。
 カウンターでいいじゃん」

 ねえ? と真尋が微笑みながら、目の前のカウンターを遥に目で示す。

「遥ちゃん、此処に座りなよ。
 兄貴はそっちでいいよ」
と言い出したので、航も仕方なくカウンターに戻ってきた。

「遥ちゃん、なんにする?」

「あ、えーと……。
 じゃあ、紅茶で」
とメニューを目で探しながら言うと、真尋は笑顔のまま、

「うち、実は珈琲専門店なんだけど」
と言ってくる。

 そっ、そういえば、表にそう書いてあったっ、と気づき、

「あっ。
 じゃあ、珈琲でって。

 いろいろ種類ありますよね」
と言うと、

「嘘、嘘。
 いいよ、紅茶で。

 淹れてあげるよ。
 一応、メニューにはあるから」
と笑う。