好きになれとは言ってない

 



「うん。
 もう家の近くに居るよ。

 大丈夫ー」
と遥が笑っている。

 人の背中に乗って大丈夫もないだろうが、と航は思っていた。

 まるで、正気なのではないかと思ってしまう話しっぷりだ。

 俺と居ることを家族に隠そうとしているのだろうかと思ったが、遥は笑いながら、
「今、課長におんぶしてもらってる~」
と言い出した。

 やっぱ酔ってんな、こいつっ、と思いながら、
「電話、代われっ、遥っ」
と言う。

 ええっ? と言う遥にしっかりしがみついているように言い、抱え直すと、片手で携帯を受け取った。

「遅くなりまして、すみません。
 お嬢さんの足取りが怪しかったので、ちょっと送っていっています」
と言うと、恐縮した母親が、

『まあ、すみませんっ。
 そこまで主人に迎えに行かせましょうかっ』
と言ってくる。

 ……ぜひ、遠慮させていただきたい。

 丁重にお断りして電話を切った。