好きになれとは言ってない

 



「遥。
 俺は、ちゃんと歩いて帰れるくらいにしとけと言ったよな」

 確認するように、航が言ってくる。

「歩いてますよ、ちゃんと」

 ほら、車に乗ってないのに、景色が移動してますっ、と主張すると、
「……おぶってるんだよな、俺が」
と確認された。

 おかしいな、電車に乗って、自分の駅に降りたところまでは確かに歩いていた気がするのだが。

 知らない街で呑んでいたから、いつも見ている景色になって、ちょっと気が抜けたのかもしれないと思っていた。

 そのとき、携帯が鳴った。

 航の背の上でごそごそして、携帯を取り出す。

「もしもし?
 あ、おかーさん?

 うん。
 もう家の近くに居るよ。

 大丈夫ー」
と遥は笑った。