好きになれとは言ってない

 店内からの灯りで、ぼんやり真尋の顔が見えた。

 黒髪の、やたら整った顔だ。

 だが、何処かで見たことがあると思った。

「入れろ」
と真尋に向かい、航は言う。

「オーダーストップだよ」

「入れろ」

「オーダーストッ……」

 言いかけ、航の目つきに、はいはい、と諦めたように真尋は溜息をつき、ガラス扉を押し開けた。

 此処でも大魔王様なんだな、と思っていると、真尋は、
「なに?
 また、晩ご飯食べそびれたの?」
と航に訊いたあとで、こちらを見、

「……彼女?」
と訊いてくる。

 その目線は下の方を見ていた。

 そっ、そういえば、手をつながれたままだった!

 慌てて振りほどこうとしたが、この頑丈な手は、ちょっとやそっとでは外れはしない。

「はははは、離してくださいっ」
と慌てふためいたところで、ようやく、航は手をつないでいることに気づいたようで、離してくれた。

 まったく動じていませんね……。

 これでは私が馬鹿みたいではないですか。