好きになれとは言ってない

 




 なんの権利が、か……。

 確かにないな、と思いながら、航は何故か、エレベーターを使わずに階段を駆け下りていく遥を見送っていた。

 そのとき、
「いやー、新海くんも、落ち着き払ってると思ってたけど、若いねー」
とさっきから、こちらを見ていたおじさんが言ってくる。

「あんなこと言ってたら、そのうち逃げちゃうよ」
と笑っている。

「まあ、あんなに可愛かったら心配だろうけどさ。
 ある程度は自由にさせてやらないと。

 うちの嫁とか今はもう、こっちが、なに言っても聞かないけどね」

 そう愚痴のように漏らし始めるおじさんに、通りかかった別の男が、
「嫁、幾つだよ。
 今更、他の男が声かけないだろ」
と笑って言う。

「いやいや。
 わからんぞ。

 最近は熟年の不倫が流行りだから」
と何故か張り合い、嫁に不倫をさせたがる。

「どうだかな。
 まあ、うちの嫁は今でも可愛いが」
と後から来た方の男が自慢げに言った。