好きになれとは言ってない

『課長、今日、遥と帰ってやってください』

 いや、こういう男には、やはり、本人から言わせた方がいいか。

 そんなことを考えている間に、小宮が勝手に航に話しかけていた。

「課長、ニンジン食べられるようになったそうですね」

 わあっ。
 なに言ってるんだ、この男っ。

 案の定、航が、なに? という顔で見る。

「遥ちゃんが言ってましたよ。
 僕、昨日同じ電車に乗ってたんで、遥ちゃんに聞いたんです」

 航は不愉快そうだった。

 原因は、子どものようにニンジンが嫌いなことを知られたことか。

 小宮が遥と親しそうなことか。

「……食べられないわけじゃない。
 あんまり好きじゃないだけだ」

「へえ。
 じゃあ、なんでまた積極的に食べてみようと思ったんです?」

「遥が……」

「ああ、遥ちゃんが、ニンジン入りの手料理を作ってくれたとか?」

「作るか、あれが。
 遥がニンジン入りの焼きそばを食べてて」

「美味しそうだったからですか?」

「いや、ニンジンは食べないでって言ってます、と俺に言ってきて。
 それでだ」

「……すみません。
 よく意味がわからないんですが」
と小宮は言っていたが、航は、そうか、とだけ言って降りていってしまう。