好きになれとは言ってない

 



 ……ニ、ニンジン、と思いながら、遥は冷たい手すりをつかんでいた。

『課長、真尋さんに聞きましたよ。
 ニンジン食べられたんですってねー』
と明るく陽気に言いたかったのだが。

 口から出たのは、
『……ニ、ニンジン』
という絞り出すような声だけだった。

 我ながら意味がわからない。

 だって、いきなりだったからーっ、と自分で自分に言い訳しながら、遥は手すりに額をぶつける。

「ねえ、ニンジンがどうかしたの?」
と背後から声がした。

 振り返ると、何故か小宮が立っていた。

 遥と目を合わすと、ぷっと笑い、
「面白いから見てた」
と言われる。

 み、見られてた……。

「小宮さん~っ。
 なんでこの電車乗ってんですかーっ」
とおのれの電車でもないのに、文句を言うと、

「いや、今日さ、大学の友だちが集まっててさ。
 ちょっとでいいから顔を出せって言われたんで」
と言いながら、まだ笑っている。