好きになれとは言ってない

 



 なにか妙な気配を感じる。

 気とかオーラとかよくわからないが。

 今、不穏な気配を感じる、と思いながら、航は本から顔を上げた。

 すると、何故だかわからないが、両の手で拳を作り、ふるふると震えて、こちらを見ている古賀遥が扉近くに居た。

 その様子に、どうした? と思ってしまう。

 だが、遥は、物言いたげにこちらを見ているだけだ。

 こいつ、なんでこの時間に電車に乗ってるんだ?

 しかも、さっきまで乗ってなかった気がするんだが……。

 車窓を確認し、もしかして、真尋の店に行ったのか? と思ったのだが、遥につられたように、自分も言葉が出なかった。

 タイミングを見失い、黙って見つめて合っているうちに、自分の降りる駅へと着いてしまう。

 しょうがなく、本を閉じ、扉付近まで歩いて行くと、その近くに居た遥が切羽詰まった声で言うのが聞こえてきた。

「……ニ、ニンジン……」

 ……ニンジン? と振り返ったとき、もう扉は閉まっていた。

 遥を乗せ、そのまま電車は行ってしまう。

 ……ニンジンがどうした、と思いながら、電車とともに、消えゆく遥を見送った。