好きになれとは言ってない

 




「ありがとうございました」
と笑顔で女性客を見送ったあと、真尋はレジから夜道を見る。

 送っていってあげるって言ったのに、帰っちゃったな、と思いながら、遥が座っていた場所を見る。

 夜道は大丈夫だろうか。
 家に着いた頃、電話してみようか、とか考えたあとで、ふと思う。

 なんでさっき言わなかったんだろうな、と。

 食洗機を開け、乾燥が終わっても、少し水滴の残っている皿を拭きながら思い出す。

『真尋さんはそんなことなさそうですね』
と遥に言われたとき、

『だって、そんなことするより……』
と言いかけて、やめた。

 なんで言わなかったんだろうな。

『だって、そんなことするより、一緒に帰ろうって言えばいいじゃん』

『兄貴が来るか、電話してごらんよ』

 そのどちらも何故か口から出なかった。

 なんでだろうな。

 俺が遥ちゃんを好きとかないと思うけど。

 これだけモテるのに、たった一人の女を兄貴と取り合うとか勘弁だしね。

 そんなことを思いながら、皿を棚に戻した。