好きになれとは言ってない

「えっ? 昨日、課長来てたんですか?」

 なんというすれ違い。
 遥は思わず戸口の方を振り向いた。

 今からでも来るかも、と思ったのだ。

 真尋は笑い、
「閉店まで居たら?」
と言ってくる。

「兄貴来るかもしれないし。
 兄貴と一緒に送っていってあげるよ」

「あ、いえ。
 大丈夫です。

 この店にも一人で来て帰れるようになりましたし。

 途中で白い猫に遭遇したら間違いないです」
と言うと、

「いや……猫、移動してるよね」
と言われた。

「こんばんはー」

 陽気な声がして振り向くと、いつぞやカウンターで真尋と話していた女性が入ってくるところだった。

「あ、真尋さんのお兄さんの彼女さんですよね?」
と笑顔で話しかけてくる。

 いや、違うけど、と思ったのだが、否定するのもなんなので、そのまま彼女と話す。

 ちょっとだけ気が紛れた。