好きになれとは言ってない

 だが、電車が次の駅に着く前、ふいに本を閉じた航が言って来た。

「遥」

 また、呼び捨てかっ、と思っていると、航は立ち上がると、こちらを見て、
「ちょっと降りるか?」
と言ってきた。

「は?」

 電車が止まり、扉が開く。

「行くぞ」
と言って、さっさと航は降りていってしまった。

 私、返事してません、大魔王様っ、と心の中で叫びながらも、遥は読みかけの本を鞄に突っ込み、慌てて航を追いかけた。