好きになれとは言ってない

 




「……おモテになっていいことですね」

 帰りの電車。

 今日は少し空いていたので、航とは少し距離を取って、遥は座っていた。

「なんでお前、この時間に乗ってんだ」
とまた本を開いている航がチラとこちらを見て言う。

「いえ、大学のときの友だちとちょっとご飯食べに行って、遅くなったんです」
と言うと、ふーん、とどうでもよさそうに航は相槌を打つ。

 じゃあ、訊くなーっ、と航を見たが、彼はそれきりこちらを見るでもなく、ただ本を読んでいた。

 ふんっだ。
 今日は私も持ってるもんねーっ、と子どものように張り合いながら、遥も本を開いた。

 さっき、友だちと書店で待ち合わせたときに買った新刊だ。

 敵はこちらを見たようだ。

 カバーをかけていない表紙を凝視している。

「……貸して欲しいですか?」
となんとなく勝ち誇ったように言ってしまう。

 航がくれた本と似た系統の本だったからだ。

 ……だから、買ってしまったのだが。

「いや、別に。
 自分で買うからいい」
と航は本に視線を戻してしまう。

 ……やはり、これを読むのか。

 大魔王様の好みがわかったな。

 頭を下げたら、貸してやらないこともないですよ、大魔王様っ、と思っていたのだが、それきり無視だった。