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「ただいま。」

「おかえり。」

優羽がリビングに居た。

「……優羽、コーチからの伝言。そろそろ曲を決めたいだって。」

最近、優羽と必要最低限のことしか話さなくなった。

……というか、私が家にいる時間が短くなったんだ。

「優羽、そろそろリンク行きなよ。」

「……紗羽に私の気持ちなんてわかんないよね。」

「どういう意味?」

話せば喧嘩になるかもしれないという恐怖もあった。

「龍が交通事故に遭って、下半身動かなくなったんだよ!!それなのに、私だけ夢を叶えようとするなんて、無理!!」

その言葉にイラッとした。

「じゃあ、龍ちゃんの側に居なよ!!ずーっと家でウジウジしてさっ!!……もういい、わかった。明日コーチに優羽は、スケート辞めるって伝えとくよ。」

「もう何なのよ!?アンタが事故に遭えば良かったのよっ!!」

っ……。




パァーン!!





それは、お母さんが優羽をビンタした音だった。

「さっきから黙って聞いてたら、優羽今なんて言った!?
紗羽が事故に遭えば良かった?
……悲劇のヒロインぶってんじゃないよ!!」

「だって、悲劇のヒロインなんだから仕方ないじゃん!!」

「じゃあ、アンタは一生悲劇のヒロインでいるの!?そんなウジウジしたいなら、家出ていって、1人でウジウジしてなさいっ!!」

あれ、最初私と優羽が喧嘩してたはずなんだけどな……。

何か冷静になってきた。

「2人とも落ち着いて。」

「っ……そうね、少し熱くなりすぎたわ。」

「何で紗羽もお母さんも、私の気持ち分かってくれないのよ!!」

「……じゃあ、優羽に私の気持ちわかるの?分かるわけないよ。」

「はぁ?何言ってるの?」

もう、本当のこと言ってしまいたい。

「私ね、龍ちゃんが好きなの。
ずっと前から。」

「……へ?」

「優羽は、中二の時私に龍ちゃんが好きだって言ったよね?
その時には、もう私は、龍ちゃんが好きだった。
……だからこそ、龍ちゃんの本心が見えてしまった。
いつも龍ちゃんは、優羽を見てた。
だから、優羽が龍ちゃんを好きだって言った時、あぁ、諦めなきゃって思った。」

「……。」

「でも、諦めるなんてできなかった。
でも、言えるわけない。
だから、私は心の中で静かに龍ちゃんに恋してたの。
そしたら、龍ちゃんが事故に遭った。
事故に遭った龍ちゃんから優羽は、逃げた。」

「っ……!」

「龍ちゃん、最初は、プリン持っていっても投げられた。
その次は、声を出してくれなくなった。
……私は、逃げたくなかった。
ううん、逃げられる訳ない。
大好きな人が苦しんでるのに、自分だけ逃げるなんてできないかから。
……それなのに優羽は、逃げたじゃない。
そんな人の気持ちなんてわかりたくない。

そんな人に私の気持ちわかって欲しくない。」

「優羽は、逃げてない……。」

「そっか……。でも、私には逃げてるように見えるよ。……ねぇ、優羽逃げないで。」

「だから、逃げてない!!」

「……もう、私は負けないから。
スケートも。……龍ちゃんも。
やっと戦う理由ができた。」

「龍は、私の!!」

「じゃあ、戦えば?」

これがフィギュアスケートの天才双子の歴史の始まりだったのかもしれないーー。