「あ....ありません....ここ、だけです....」


小百合ちゃんは涙を流しながら弱々しくそう答えた。答えてくれたことに少しホッとすると、秀哉はいきなり立ち上がり、そこの戸を開けて部屋に入った。いきなりの行動で皆面食らった状況から数十秒後に、手で口を押さえながらも顔を真っ青にして出てきた。


「しゅ、秀哉君?何を」


「蘭。こんな状況ほど事実確認ってのは大事なんだ。小百合の言うとおり、この部屋には出入り口はない。」


秀哉は少しホッとした表情を真っ青になりながらもした。まぁこれで小百合ちゃんは嘘は付くつもりはない可能性が高くなったから、信用しても良いのだろう。だから、秀哉は小百合ちゃんにスタンガンを使う機会はほぼ無くなったのと同じということだ。


「よし。じゃあ小百合。まずお前のことを教えてくれ。何故あんな弱っていたのか、何が悲しいのか、何であんな奴らに手を借りるのかを。」


小百合ちゃんは口を開いたがすぐに閉じてしまう。言っていいのか悪いのか、そんな気持ちなのだろう。言いたいけれど本当に大丈夫なのか?と。
小百合ちゃんは初めて見た時から、実里ちゃんや幸江さんのような余裕は全く持ってなかった。常に近くにある巨大な恐怖に怯え、押し潰されそうになっていた。そんな反抗すら不可能だった恐怖に今初めて逆らおうと言うのだから相当の勇気がいるのだろう。


「小百合ちゃん。勇気を出してくれ。私達は助けたい人がいるんだ。今苦しんでいる小百合ちゃんだって、私は助けてあげたい。」


小百合ちゃんは更に泣き始めた。涙と鼻水で顔がクシャクシャになりながら、声を出すのを我慢していた。私が小百合ちゃんの頭を撫でてやると、小百合ちゃんは段々落ち着いてきて、固く閉ざされていた口が開いて私たちに告げてくれた。