「そんなの覚悟の上だし、また洗えばいいじゃん。あのぬる過ぎる水で。」
「フッ....そうね。...行くわよ。」
愛梨が戸に掛けている手に力を入れた。その時の愛梨はさっきまでの冷静さは感じられず、緊張気味だった。まぁ無理もない。口ではなんとでも言えるが、いざとなると怖いものだ。自分の親友の無惨な姿がそこにあるのかもしれないのだから。
私も怖い。だが怖がっていても始まらない。覚悟を決めなければいけない。
愛梨はこちらをチラッと見てくる。私はその意を読み取って軽く頷くと、一呼吸入れて愛梨は戸を開け始める。実際はそんなにでもないが、私は戸が徐々に開いていくのが何分にも何時間にも感じた。額から汗が流れて、鼻先まで垂れてくるのを感じながら、今にでも閉じそうな瞼を必死にこじ開ける。後ろに行きたがる足を意識で抑えて、手が自然と握りこぶしになっていた。
愛梨は本当に恵美のことが大事なんだろうな。愛梨の想いは本物。親友に対して一切の迷いがないのは本当に私は尊敬していた。
おばちゃんや秀哉だってそうだ。辰吾とは違って逃げることだけを見つめてはいない。ここを無事生還出来たら皆で食事したいものだ。気に食わないが蘭も含めて....
そんなことを思っていると戸は完全に開かれて、あの異臭が漂ってくる。鼻を自然と押さえつけて、吐きそうになるがグッと堪える。
愛梨も私と同じく、吐きそうになっていたが、覚悟は緩んではいなくむしろ強まっていた。



