「ハァハァハァハァ.......」


俺は今人生史上最も危険な場面にいる。走っても走っても後ろからの足音は遠ざからずに、むしろ近付いている。
全く....陸上部のエースともあろう者が....とんだ笑いもんだな。なんせ女子に追いつかれるんだからな。

そんな冗談を胸の中で吐きつつ、走りながら後ろを振り返ってみるも、見なければよかったと後悔した。

実里は凄まじい形相で、思っていた以上に猛スピードで走ってくる。まるで人間と馬の戦いみたいなものだ。このペースだと思っていた以上に早く追い付かれてしまう。俺は体力がまだ多いほうだと思っていたがそれはどうやら勘違いらしい。
段々スピードが落ちていく俺に対して実里はスピードが落ちることを知らない暴走トラックのようだった。

もし捕まった暁にはきっと惠津子さんや三津ちゃん以上の残酷な死を迎えることになりそうだ。
俺はそんなことをついつい想像してしまい、身震いを起こす。一瞬でも気を抜けばすぐ距離は縮まり、後は血祭りが待っていることは重々承知しているが、もう肺が潰れそうな勢いだ。
喉は枯れて、口には溜まりに溜まった唾液があり、飲み込もうとするが、どうも喉につっかかり上手く飲み込めない。