美津の右腕は幸い骨には影響が無かったが、跡が今でも痛々しく残るほどになった。その時信二は優人に対してこれまで以上の真剣な眼差しで「お前は男だ。相手がどんなに怖くて強かろうとお姉ちゃんが危なくなったら守ってあげなさい。」と優しい言葉で伝えた。

優人はこの言葉がつい先日聞いたように鮮明に覚えてるし、さっきから自分にとって理解不能な行動ばかりとる美津にはため息とか吐くものの、あの時自分を守ってくれた事があって美津を尊敬し守りたいと心の底から思っていた。

そんな事を思っていると美津は急に止まりだした。どうしたのかと聞こうとしたが、美津が耳を済ましていることに気づいて自分も一緒に耳を済ませた。すると小さい声だが若い女の人の声が聞こえてきた。上を見上げると『調理場』と書かれている看板が目に入った。美津もそれに気付いたのだろう優人と美津は顔を見合わせ音を立てないように慎重に歩き始めた。

慎重に歩いていくと徐々だが、声が大きくなっていくのを感じる。美津も息を殺しながら少しにやけている。
そんな美津を見ていつもみたいに何やってるのかと思うが、自分もニヤついているのに気付いてハッとした。

こんなに慎重に誰にも気付かれずに歩くのは何か自分がスパイとかアサシンみたいな感じで少し楽しい気持ちもあったのだ。