「実里です。ご迷惑かけると思いますが、何卒宜しくお願いします。」



そう言って実里ちゃんはペコッとお辞儀をした。だが私達の位置を把握出来ていないので、私達とは少し違う方へお辞儀をしたのでちょっと違和感があった。


「それじゃあこの実里が風華様の部屋に案内しますので。私達は従業員が少ないものですから、荷物はご自分たちで持っていかれることになりますが宜しいですか?」


この場で誰しも気にかかっていることを最初に聞いてくれたのは秀哉だった。



「あの!荷物は別にいいんですが、目の不自由の実里さんに部屋に案内することって出来るんですか?部屋の所を教えて貰えれば自分達で歩いていきますよ。」



「そうっすよ。逆に何かあっちゃあ困りますからね」



辰吾が相槌を打つように秀哉の質問に続いた。
さっきの話のとおりだ。何でわざわざ案内するのか....それに何で盲目の少女を案内役にするのか理解が出来なかった。
幸江さんは表情を変えずにあたかも当然のように言った。


「実里は生まれてから盲目だったものでこの旅館の構造は知り尽くしています。それにこの仕事も結構やって来ていますし、私達は計四人でこの旅館を切り盛りしています。贅沢なことは出来ないので、せめてご案内位はしっかりやらせて頂きたいと思っているのです。どうか実里に任せてやってもらっても宜しいですか?」



こんな事を言われた後は断りにくく、私達は渋々案内役を任せた。「こちらです。」実里ちゃんは先導を切って歩いていく。私達も急いで荷物を持ち、ついていった。ふと後ろを向くと幸江さんは沢村家と話していた。だが、美津ちゃんはこちらに笑顔を向けながら手を振ってくれた。さっきぶつかられた事はすっかり忘れてこちらも手を振り返した。