このまま何も知らないまま辰吾を旅館に足を踏み込ませてもいいのだろうか。
人手が欲しかったのは念を押すとそうなんだが、辰吾はこの状況を知っていたらとどんな気持ちでどんな行動をするのか、下手な事はさせたくないっていう自分達の気持ちだけだったが辰吾の気持ちを考えていなかった。このままだと辰吾は本当にただの巻き添えだし、もしもの事があったら恨まれても文句は言えない。
隣にいた秀哉とふと目があい、秀哉は私の考えてることと同じことを考えていた、あるいは察したのかゆっくりと頷いた。


「ねぇ!!おばちゃん!辰吾!ちょっと来て!!」


私の声が届き二人はほぼ同時に振り返った。


「何だよ咲。早く行こうぜ!もう俺歩き疲れちまったんだよな。」



「....大事な話があるんだよ....辰吾。」


何も知らない辰吾に目を合わせて呼びかけた。辰吾の後ろにいたおばちゃんは私の呼びかけの意味が分かったのだろう、小走りでこちらへ向かってきてくれた。
一方辰吾はというと明さまに視線を空へ向けて顔面の何ヶ所を落ち着きなさそうにかきはじめた


「な....何だよ?大事な話って...」


「いいから。早く」


辰吾は「しょうがねぇな」とギリギリ聞こえるくらいの小さい声で走ってきた。歩き疲れたのに何で走ってくるのか分からない。普段ならここで一つ「疲れてるんだけどぉ。行ってからでいいじゃん」とか一つ文句言ってくるのだが、そんな言葉は一切かけてこなかった。きっとあいつも私達がいつもと違うのを悟ったのか?