「あれが....「彩澄旅館跡」?跡地の「あ」の文字もないってくらい立派じゃねぇかよ」


辰吾が唖然としながらも言った。
正直「彩澄旅館跡」の「跡」の文字は「跡地」のことではないのかと確信する。何故なら目の前には立派ないい旅館しか無いのだがら。私が今までに見た旅館とあまり変わらず、いい雰囲気を感じた。しかも電球やらLEDではなく明かりは松明。大きい門と壁で覆われているが、壁の中から出てくる大きい松の木も良い味を出していた。まるで昔の旅館に泊まりに来たような感覚だ。

こんな旅館を見ると結構前でテレビで見た探偵ドラマの旅館殺人事件を思い出す。犯人は被害者を悪く思う女将で、被害者が泊まる部屋の天井裏から被害者がトイレに言っている間に飲んでいたビールの中に何本も繋ぎ合わせた長いストローで毒を盛り、殺すっていう感じで、かつての私も犯行手順とかを考えたがその発想には行かず、とても衝撃を受けたのを未だに覚えている。


「それじゃあ早く風華の所に行きましょ。...皆風華の為にありがとね....」


おばちゃんは少し震えた声で歩きながら言った。


「何いってんすか!俺らは風華の親友っすよ!こんなの当たり前じゃないっすか!」


元気に大きい声でいう辰吾を振り向きもせず珍しく冷たい態度のおばちゃん。
辰吾は何でスルーされたのか分からないって感じで足を進めた。