元気。多分平熱。至って普通の私だ。

でもまぁ、康介がこう言いたくなる気持ちも、わからないでもない。


「何読んでんの」

「有原ヒロコって人の、“風になれ”って話」


開いていた本の表紙を見せてやると、康介はへぇと声を上げた。


「どういう風の吹き回し? 読書とかする柄じゃねぇだろ」

「まぁね」


自慢じゃないけど、生まれてこのかた読書に没頭したことなど一度もなかった。

でも今、私は確かに、少しの愛おしさを感じながらここに綴られている文字たちを辿っていた。


活字とは無縁だった私が読書に没頭するきっかけとなったのは、年末、修了式の日に靴箱ポストに届いた手紙だ。






【登坂 千鶴さんへ


すぐに返事を貰えるとは思ってなかったから、びっくりしちゃった。

明日から冬休みだろうけど、登坂さんは部活があるんだよね。

寒い中、本当にお疲れ様です。

くれぐれも風邪をひかないように気をつけてください。