晴れ渡る空の下で、君のために風となる。

「あれ、ナイケの登坂千鶴だ。俺、高校3年のインハイの時からファンなんだよ」

「私は彼女が大学の頃から。いいよね、フォームも綺麗だし」

「そうかぁ? 俺は、小塚製薬の安本楓のほうが好きだなぁ、キャリアもあるし」


応援する選手について白熱した議論を繰り広げる客の声らしい。

舞台は全日本陸上競技選手権大会。盛り上がるのはわかるし応援してくれるのはありがたいけど、今は気が散ってしまうので、声を掻き消すべく音楽のボリュームを上げた。




スタートラインに立つ度に、あの日のことを思い出す。

あの日も今日みたいな晴天で、夏にしては少し冷たい風が心地よかった。


リョータが好きだと言った空の下で、リョータが大好きだと言ってくれた私になる。だから、まだ。

そんなことを思いながら、ただ走ることに集中した。

風と一体になるのを感じて、ゴールした先に広がっていたのは、もう一度見たいと願い続けた、あのキラキラとした景色。