ベッドが空く。それが必ずしもいい意味であるとは限らないのだ。


「……ごめん」


ちょっと気まずくなって声を沈めると、リョータが小さく首を振った。


「ううん。また登坂さんの走るところが見れると思うと、嬉しいよ」

「リョータ……」


目を覚ましてからのリョータは、少しずつ回復傾向にあるように見える。

今は酸素マスクをつけなくても平気そうだし、目覚めた直後はままならなかった歩行も、ゆっくりではあるものの出来るようになった。

雑誌に載っていたリョータとは違って筋肉は削げ落ちてしまった感じだけど、柔らかい笑みはそのままで、このまま元気になるんじゃないかと思えてくる。


「あ、そうだ。今日読み終えた本、すっごくよかったんだ。棚の上の収納に入ってるから、よかったら読んでみてよ」

「わぁ、ありがとう。リョータのオススメって全部好みど真ん中だから、ありがたいんだよね」

「ははっ、それならよかった」


椅子から腰を上げて棚を開くと、そこには無数の文庫本が並べられていた。

記憶を呼び起こして、昨日までリョータが読んでいた本を探り当てる。