「やりましたね、千鶴先輩!」

「うん……!」


まだ自己ベストには及ばない。

だけど確かに、状態は上がってきている。


私が私らしく走る。

誰のためでもない、私のために走る。──そんな当たり前のことに気付けると、こんなにも足が軽いだなんて。


「この調子だと、明日のインハイ地区予選も大丈夫そうですね」


ストップウォッチを握り締め、柔らかく笑うトモちゃん。

そんな彼女の笑みに、少し前までの自分を恥じた。


「ごめんね、トモちゃん」


唐突に謝った私を、トモちゃんが目をパチクリさせて見る。

茶色いその目はとても澄んでいて、真っ直ぐに見つめられると少し痛かった。


「最近の私、刺々しかったでしょ。トモちゃんが心配してくれても、聞き入れなくて……」

「なーんだ、そんなことですか」


今度は私が目を瞬かせるほうだった。

トモちゃんはやれやれ、と言った様子で息を吐く。