鼓動がうるさい。全身が心臓になったんじゃないかとすら思う。


「お前今日遅くね?」

「あー……うん。ちょっと寝坊した」


康介の声が徐々に近づいてくる。

それもそのはず、康介の席は私の斜め前のその前なのだ。将棋で言ったら、桂馬みたいな感じ。……って、わかりづらいか。

いつの間にか机の上に落としていた視界の端に、見慣れた制服が映る。鼻腔を擽ったのは間違いなく康介の匂いで、顔を上げずともそれが彼だとわかる。

私達に起こった出来事を知らない真田は、いつもの調子で康介に声をかけた。


「おはよ、長谷」

「おう。またうちのクラス来てんのか、真田」

「別にいいでしょ。……って、あんたも吸血鬼じゃん」

「は? 吸血鬼って何」

「目。赤いよ」


面白そうな真田の指摘に、益々顔が上げられなくなる。


「あー……。昨日、遅くまでサッカーの雑誌読んでたから、寝不足なんだよ」

「へぇ、そうなの。長谷もサッカー雑誌とか読むのね」