晴れ渡る空の下で、君のために風となる。

なんで。こんなタイムじゃダメなのに。

もっと早く走らなきゃ。

もっと練習しなきゃ。

もっと。もっと、もっと。


「ごめんトモちゃん、もう1本走るからタイム測って」

「もう1本って……千鶴先輩、まだ走るんですか!?」


ぎょっと目を剥いて、彼女は声のボリュームを大にした。

乱れる息を整えながらちらりと視線を向けると、一瞬トモちゃんの目が怯えて竦んだ。

何となく、心穏やかでない空気が2人の間に流れる。


これ以上言葉を交わすことを望まなかったので、その隙に踵を返してスタートラインまで巻き戻った。




余裕がなくなって、どんどん心が尖っていってることには気付いてた。

きつく吊り上がっていた鏡の中の自分の目と、固く引き結ばれた唇。

無理矢理口角を上げてみても、あまりに不恰好だったから虚しくなった。


深い、深い海の中にいるみたいだ。

いくら泳いでも光は見えてこない。

水を掻く手足は疲れ果て、やがて巧く機能しなくなる。