背中を押してくれてありがとう。思わず見惚れるほどの泣き笑いを見せて、真田が言う。

もう、我慢できなかった。


「真田……っ」


階段を一段駆け上がって、華奢な彼女の首に腕を回した。そして、その腕にぎゅうっと力を込める。

ストッパーが決壊してしまった涙腺は、容赦なく私の頬を濡らしていく。


「登坂……?」

「よく、頑張ったね。えらいよ、真田」

「……っ」


真田が、私の肩に頭を預けた。

マフラー越しに、真田の熱い吐息が伝わってくる。


「絶対……幸せになんなきゃ、許さないんだから……っ」


私のブレザーを掴む手に、力が込められた。それを合図に、二人で声を上げてわんわん泣いた。

身体中の水分全部、涙となって流れていくんじゃないかって思うくらい。


前までの自分は、知らなかった。

恋がこんなにも苦しいものだってこと。

嬉しいことも幸せなこともきっとあって、それでも悩んで、胸を焦がして、こんなふうにうまくいかなかったりして。