「高校生のサトタツに数学を教えたのが、当時クラスが同じだったカノジョだったんだって。カノジョが数学の楽しさを教えてくれたから、今の自分が在るんだって。私の中で、自分にとってのカノジョみたいな存在になれたことが、心の底から嬉しいんだってさ」


彼女の存在があったからこそ、真田はサトタツに出会えた。

なんて、辛くて苦い。


「カノジョのこと、みんなの前で話したくなさそうだったのに私に話していいの? って聞いたんだ。そしたらあいつ、なんて言ったと思う?」

「なんて、言ったの?」

「俺とお前の仲だからなって。お前にしか教えない、特別だぞ……って。悔しいくらい、眩しい笑顔で言ったんだ」


胸を直接鷲掴みにされたような、そんな苦しさを覚えた。

歯を食いしばって堪えていたものが、少しずつ迫り上がってくる。


「ねぇ登坂」

「な、に?」


目を真っ赤にした真田が、涙の先で大輪の笑顔の花を咲かせた。


「私、サトタツの“トクベツ”にはなれなかったけど……それでも、“特別"にはなれたみたい。それだけで、もう、十分」

「……っ」

「きっとこれが、私にとって1番の、後悔しない道だったんだ」