「……っ」


氷のように冷たく強い風が、びゅうっと校舎内に吹き込む。

その冷たさにはっとして、慌てて気配を殺し陰に隠れた。

声を押し殺そうとして、それでも漏れ出る嗚咽を堪え切れない真田にかける言葉を、巧く探し当てることが出来なかったから。


この状況になって、ようやく悟る。


『すげぇじゃん、真田。俺が高校生の時、この範囲欠点ギリギリだったぞ』
『部活ばっかりしてるからだよ。──』

人気者のサトタツだけど、高校時代、何部に所属していて何に打ち込んでいたかは知れ渡っていない。

だけどテスト返しの時、全てを知っているような口ぶりだった真田。

それは、知れ渡っていない情報を知り得る時間が、ふたりの間にあったということ。


答案用紙に書かれていた少し乱雑なメッセージを手に、真田が頬を赤らめていた意味。

今こうして真田が肩を震わせ、寒空の下で頬を濡らす意味。