黒い髪に、金色の瞳。整った顔立ちは、綺麗な女性かと思うくらいで。

でも、細身な体つきは、男性のそれだ。黒い服を身に纏った立ち姿は、黒猫を連想させる。


「だいじょぶ?」

「あぁ、はい……」


泣いている所を知らない人に見られたことを思うと、急に恥ずかしくなってきた。

傍から見たら、派手に転んで泣いてる学生だ。

恥ずかしさからすぐに立ち上がって、その場を立ち去ろうとすると、その男性に腕を掴まれた。


「いや、ごめん、質問が悪かった。キミ、大丈夫じゃないよ」

「……え?」

「俺、キミの状態分かってるからさ」

「状態……?」


男性の言ったことが理解できず、言葉をそのまま反芻する。

状態って、もしかして、この混沌とした記憶喪失のことだろうか。

「思い出せないんでしょ?」

「はい……はいっ!」


思わぬ理解者の登場に、つい声が上ずる。

でも、そんなこと関係ない。この状況の打開策を、教えてもらえるかもしれないんだ。


「安心して、迷子は俺が助けるよ」

「ありがとうございます!」




その人に優しく頭を撫でられ、私は、何もかも解決したような気分になっていた。

この時は混乱してたし、仕方なかったと思う。かっこいいお兄さんに「俺が助ける」とか言われたらさ、そりゃ安心するじゃん。


もうちょっと、疑うべきだったよ……。