さっき怒ってた駅員さんがまだホームにいて、明らかにあたし達の事を見張ってる。
けど、あたし達は静かなもので騒ぐどころか会話もない。
さっきまでの空気とは真逆だった。
電車は滑るようにホームへと入ってきて、徐々に速度を落とす。
軽快なリズムで走っていた電車は無理やり止めさせられる事に反論の意を示してるのか、最後は悪あがきでもするみたいにギギギッという耳をつんざく音を立てて、止まった。
「じゃあ、また明日な」
「うん、13時に。映画館の前で待ち合わせでいい?」
ってか、最終的になに観るの? って聞こうとしたけど、言わなくても彼にはお見通しだったみたい。
「うん。浮田が言うラブロマンス観よう」
そう言って、星野くんはキラキラと微笑んだ。
不意に見せたその笑顔に、思わず見惚れてしまってると、背後で電車の扉が開いた。
早く乗れよ、とでも言いたげに乱雑な開き方をした扉にムッとしながらも、あたしは電車に乗り込んで、入り口に立つ。
車内はガラガラ。席はどこも選び放題だ。
だけどあたしはその場から動かずに、星野くんと向き合った。
「また、明日」
そう言うと同時に、再び乱雑に扉が閉まる。
あたしの声をかき消すみたいにして閉められた扉。
声、届いたかな? なんて扉越し星野くんを見たら、彼はまた笑って口を開いた。
“ああ、明日な”
きっとそう言ったに違いない。
声は聞こえないけど、彼の口はそう語っていた。
ゆっくりと走り出す電車が、星野くんを景色と共に消し去ろうとするけど、あたしは彼が見えなくなるまで目で追った。
星野くんもあたしが見えなくなるまでホームにじっと立ち止まり、微笑んでくれていた。