呼吸をするのと同じ気持ちで、僕は君に好きだと言えた。それと同じ気持ちで、今度はきっと、おめでとう、と言えるだろう。


「ありがとうね、」


どちらからともなく、僕らはそう呟いて微笑った。あの日君が泣いていた理由は、もうわからなくていいと思った。

あの頃の僕たちは、空が青いくらいに恋をしていて、けれど愛だ恋だと曖昧な気持ちが、きらきら輝く宝石みたいな形をしていないと誰かに咎められることを知っていた。

お互いに誰よりも近い場所で、さらに近くへと手を伸ばしては、縮まる距離に怯えながら、間違うことを恐れながら、それでも確かに、恋をしていた。


「あの時、本当はね、頷きたかったんだ」

「うん、知ってたよ」

「でも今、幸せだよ」


まちがってなかったよね、と君が笑う。空があんまり青いから、君があんまり綺麗だから、僕はあの日と同じ気持ちで、心の中のあの日の君に、キスをした。




【メロウ】

(僕はあの日と同じ気持ちで、眩しいくらいに真白いタキシードの裾が翻るのを、見送った)