風の子坂を駆けぬけて


風の子坂に差し掛かり、道路脇の桜並木は吹き付ける風で大きく揺れていた。


坂の途中にいた2人は息を切らして待っていた。



「はぁ…はぁ…、春ってこんなに風強かったっけ」

せっかくリボンでくくった胡桃のツインテールが乱れている。

「どこまでいったんだろうー」


しゃがみこんだ明日香が嘆いた。


「でももうさ、卒業したんだし、なくなってもっ…」

この場をなだめるようにそう言葉を零す知優。

「もーう、違うでしょ。失くしたら後味悪いよ」

明日香に返って諭されてしまい、余計に申し訳なくなる。


すると、坂の上で「おーい」と叫ぶ男子の声に気づく。
そこにいたのは健だった。
手に黄色の通学帽を持って振っていた。

「これー!拾ったー!ちゆーのだろー!」


淀んだ空気がぱぁっと一気に明るくなる。


「よかったじゃん!」

明日香が肘で知優をつつく。

胡桃も沙耶も安堵感の笑顔というよりむしろ、何かに期待したかのような、わくわくした笑顔を浮かべた。


「ああー!」

声にならない声を発し、照れを誤魔化すためにもこの場をやり過ごすためにも、知優は勢いよく走り出した。

「いえーい!はっしれー」

陽気におどける明日香を筆頭に、彼女達も知優の後を追った。