昨夜は一睡もしなかった。

それなのに全く眠気がこないのは、今日が人間界にいられる最後の日だから。



「おはよう、奏。見てみて、目玉焼き作ろうとしたらね…ほらぁ!」



リビングに降りると、エプロン姿のお母さんがフライパン片手に駆け寄って来た。



「わぁ、スゴーイっ!黄身が三つもあるなんて、初めて見たよ!」

「でしょう?お母さんもよ!今日は絶対にいいことがあるわね♪」



ハイテンションで小躍りなんてしながら、キッチンに立つお母さんの姿を見るのも今日で最後か。



「そうだね!絶対に…いいことがあるよ!」



堪えることが出来ず、溢れ出てきた涙を誤魔化す為にアクビの真似をした。

そしてお母さんの目を盗みながら、ビジネスバッグのポケットに手紙を忍ばせた。



お母さん。

最後まで言葉で伝えられなかったけど…。



私を育ててくれてありがとう。

生まれ変わったら、またお母さんの子供になりたい。



ありがとう。