私が働くカフェは夜にはお酒も出すバーになる。だからその準備で店内は夕方ごろ締め切り、お客は入れない事になっている。しかしその店内で、カウンターを挟んで私と彼は睨み合っていた。


「……で、今回はどうなの? 堀川 司郎(ほりかわ しろう)」

「フルネームで呼ぶのはやめて下さい」

「そんなつまんない事に突っかかって来ないでよ! どうでもいいから早く感想を聞かせて!」


新米弁護士とカフェの店員。力関係では私の方が上だった。


単に私の年齢が上という事もあるのだろうが、どうやらこの青年は女性の押しに弱い所がある。そんな事でちゃんとした弁護ができるのだろうかと疑問だ。でもそれは本人の問題なのであえて言わないけど。


「理子さん、今回は………………」

「うんうん!」

「ダメですね」


司郎君にダメ出しをされるのは今回で何度目だろう。悔し紛れに目の前にあったコーヒーを、ガブガブと飲み干した。


「名取先生の物に比べると、味に雑味が混ざっています。それに香りがまだ足りません。苦味が強くて酸味は少し弱いように感じます」