「私に向ける優しい笑顔を、私以外に向けたりしないでください。」


私は目線を戻して、快斗の目を見てそう言った。


「え、え…?」


かなり戸惑っているけど、私は快斗の目から視線を移さなかった。
ずっと快斗だけを見ていたら


「…も、もちろん!!」


快斗は思いっきり首を縦に振った。

そんな姿を見て、私は思わず笑ってしまった。


「………私も、あなたのことが好きです。」


はじめて、私は私の気持ちを言葉にした。

あんなに嫌いだった暴走族を、私は好きになった。
恨む気持ちは変わってない。
………でも、この人の変わろうとしてる気持ちはわかるから。
昨日のタバコ臭さも、今日の快斗からはしない。

バイクにも乗ってない。教習所にも通ってる。
さくらの命も助けた。


この人は、お兄ちゃんを殺したあいつとは違うんだ。


「……俺の彼女になるってこと?」


「イヤならいいです。」


「い!いや!!違うよ!
嫌じゃない!むしろ桜子ちゃんじゃなきゃだめだから!!」


「うるさっ…」


快斗は私の腰に手を回したまま。
この近距離でこの大声はなかなか辛い。


「………桜子ちゃんも、そんなかわいい顔俺以外のやつに見せないでね。」


………それがどんな顔なのか、私にはわからないけど。


「キスしていい?」


「嫌です。こんな道端でやめてください。
誰かに見られたら困ります。」


私がすくに拒否すると、快斗の顔は完全に不貞腐れていた。


「涼介とは出来て俺とはできないのか。」


「な、………また涼介勝手に…」


っていうかあんなの、キスのうちに入らないでしょ。


「……どっちからした?」


「そういうんじゃないです。
ただの劇の一部だっただけです。」


「人前でしてんじゃん!!」


「だからそういうんじゃないっ、んっ…」


腰に回したままの手と、反対の手で私を引き寄せ、突然私にキスをしたから


「ちょ、桜子ちゃん!」


私は快斗を強く押し、体を離して先に歩き出した。
顔がすごく熱い。これは絶対顔を見られちゃいけないやつだ。


「ごめん!怒った?」


「怒ってないです。」


だからそんなに顔を覗きこまないで。
絶対顔が赤いから………


「じゃあもう家に着いたので失礼します。おやすみなさい。」


私はそれだけいって、足早に家に入った。